01林木遺伝子銀行110番
日本各地には、天然記念物等に指定された樹木や巨木、名木など地域のシンボル的な存在となっているものが多い。林木育種センターでは、これらの樹木が枯死の危機に瀕しているなどの理由で後継樹育成の緊急性が高い場合、苗木を増殖し所有者等に里帰りさせる「林木遺伝子銀行110番」という事業を行っている。この事業の説明のうち、正しいのはどれか。
- 所有者等の要請がない場合でも、公共性が高く特に緊急性が高いと判断された場合は、研究機関の判断でこの事業を行うことができる。
- 増殖は、もとの個体と同じ遺伝子を引き継ぐ必要性があることから、接ぎ木、挿し木といった無性繁殖による増殖法が主体となる。
- 天然記念物に指定されている樹木が対象となる場合、所有者の同意があり、かつ緊急性が高いと判断された時は、穂木の採取許可の手続きを採取作業の後に行うことができる。
- 老齢な樹木が自然枯死の危機に瀕している場合を対象としていることから、マツノザイセンチュウなどの病虫害により衰弱している樹木は事業の対象外である。
- 増殖した苗木は、所有権があるため全て所有者等に返却するのが原則である。
基本解説
一本の名木と同じ遺伝子型を残すには、種子ではなく無性繁殖を用いる
種子は有性生殖で生じ、母樹と花粉親の遺伝子が組み換わるため、発芽した苗は元の名木と同一の遺伝子型にはなりません。接ぎ木、挿し木などの無性繁殖では、元の個体の体細胞から新しい個体を育てるため、原則として同じ遺伝子型をもつクローンを作れます。地域の象徴木の特徴を受け継ぐ後継樹を育てる林木遺伝子銀行110番では、この性質が必要です。
有性繁殖と無性繁殖
| 方法 | 遺伝的結果 | 後継樹育成での意味 |
|---|---|---|
| 種子繁殖 | 遺伝子の組換えにより親と異なる | 種の多様性保全には重要だが、特定個体のコピーにはならない |
| 接ぎ木・挿し木 | 原則として元個体と同じ遺伝子型 | 名木の形質を引き継ぐクローン増殖に適する |
事業の手続と範囲
- 所有者等からの要請と、後継樹育成の緊急性の判断に基づいて実施する。
- 天然記念物から穂木等を採る場合、必要な現状変更等の許可を事前に得る。
- 病虫害による衰弱でも、後継樹育成の緊急性が高ければ対象になり得る。
- 増殖苗をすべて返却するとは限らず、系統保存・研究のために保存する場合がある。
樹木医の手引き 第4版 p.670 ES版 90-91頁